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キャリアファーマー中西直紀氏に聞く!引きこもり・ニートが一歩踏み出すには?

キャリアファーマー

大学卒業後、東証一部重工メーカーで人事部採用担当、法人営業業務をあわせて12年経験。
その後人材ビジネスなどを経て2009年1月より、培ったコミュニケーション能力をいかしキャリアコンサルタント・講師業務を開始する。
正社員就職の支援も行っており、20年以上引きこもり経験者を社会復帰へと導いたケースもある。
自身も転職、失業経験があり、しっかり傾聴したうえで助言、提案を行うスタイルである。
その他にも高校や大学、専門学校、職業訓練校、企業、矯正施設等に出向き、幅広い層のキャリア、就職支援に携わる。
多方面にわたる経験とワイドな視点からどんな相談にも真摯に対応ができ、たくさんの引き出しを持ちあわせている。
資格(2級キャリアコンサルティング技能士・産業カウンセラー)

独立キャリアコンサルタントとして大阪を中心にキャリアの相談や就職のセミナーなど、精力的に活動している中西直紀氏。20年間ひきこもりで家族とも口を利かなくなった青年を社会復帰に導いた実績のある彼の肩書きは、〝キャリアファーマー〟。今回はそこに込められた意味や、仕事への想いについて語っていただいた。

あなたが持つ「本来の力」を引き出す〝農家〟

「キャリアファーマー」とはどういったお仕事なのでしょうか。
自己分析の手伝いとか、書類添削、面接対策などを通じて就職や転職を考えている人をサポートする仕事です。一般的な「キャリアコンサルタント」の仕事と同じで、「キャリアファーマー」は私の造語です。
なぜ「ファーマー」なのですか?
私は15年近く趣味で野菜作りをしていて半分農家だからです(笑)。
あ、そういう理由だったんですね(笑)
でもね、キャリアコンサルタントの仕事と野菜作りは似てるんですよ。
と、おっしゃいますと?
基本的に野菜って種を植えたらほったらかしでも自生します。私は雑草を取り除いたり最低限のことだけをして、野菜本来の「実をならす力」を引き出しています。

就職も同じで、本来、人には「なりたい自分」になる力がもともと備わっているんです。でも自信をなくしてそれに気づけてない人が多いです。だから私は、不安を減らして本人の力を引き出すことをしています。

つまり手を加えることは最低限にして、その人本来の力を引き出すということでしょうか。
そういうことです。結局私がしているのは「土を耕す」とか、「雑草を取り除く」とか本当に最低限なんです。
ただ、その「なりたい自分」と「いまの自分」にあまりにも差があったり、いつまでにという期限がある場合は肥料を与える場合もありますよ。「こうした方がいいよ」「こんな選択肢もあるよ」とやるべき事とかいろんな情報を提示します。
相手を動かすことは「肥料」ということですかね。
そうですね、こちらが働きかけて変化を起こさせることです。作物は肥料を与えると成長ホルモンが活性化しますからね。
なるほど。もともとそういう想いがあってこのお仕事を始めたのですか?
というよりは、仕事をしているうちにですね。キャリアコンサルタントとしての駆け出し時に若者就労支援機関での仕事に出会ったんですけど、そこを経験して生まれた想いです。
どういった経験だったんですか。
そこではいろんな「ハンディキャップ」を抱えて来た人が、支援機関を通してちょっとずつでも自分を変えていきながら社会に出ていくんです。
その姿を見て、本来持っている力を引き出す野菜作りと似てるなーと感じたわけです。

20年間ひきこもりから社会復帰へ導く

施設で実際に育っていく人たちを目の当たりにした経験が「ファーマー」へとつながったわけですね。
そうです。どんな作物も育つように、どんな人も育つんです。
どんな人もですか?
はい。過去に、18歳から20年間引きこもってた人を正社員へ導いたこともあります。
その人は高校生のときに1週間郵便局のアルバイト経験があるだけで、30代後半で一度も就労経験がなかったんです。
20年ですか!その間家の外に出ていないんですか?
家の外どころか部屋の外に出ることも稀だったようです。
家族ともほとんど喋らなくて、私との面談でもイエス・ノーの意思表示が限界でした。
それでも2年間通い続けて、彼は39歳で正社員として働き始めることができました。
そこまでくるともはや魔法ですよね。
いや、違いますよ。みんなもともと力があるんです。
それを最大限に活かすために、いろんな質問や話を続けてきただけで魔法でもなんでもないです。
まさにファーマーですね。具体的にどんな話をされたんですか?
まずは相手のことを知るために質問していきます。趣味や学生時代に打ち込んできたこととか本当いろいろですよ。ただ彼の場合は、質問への答えは単語だけというのがほとんどだったので、私からたくさん話をしましたね。
就職の話だけじゃなく、全く関係のない雑談もします。テレビ番組の話とか。
「関係構築」を一番大事にしているので。
なるほど。その方が社会復帰に成功したのも中西さんと信頼関係が結ばれたからですか。
そう信じてます。何度も面談を重ねていくうちに、「就職」は彼と私の共同目標のようになって、なんとか達成したいとお互いの想いが一つになっていくのは感じましたね。話してくれる時間も少しずつ増えました。
どれだけ逃げ出しても、どれだけしくじっても、最後まで私はついてましたから。
働くことでその人も幸せになったんでしょうか?
なったと思いたいですね。彼にはバリバリ働いている弟がいて、その弟がたまに実家に帰省すると避けていたそうなんです。子どものときはよく一緒に遊んでいたのに。やっぱり働いてない自分に引け目を感じてたんですね。それが就職が決まってからは兄弟で話をするようになったそうです。

個人的に連絡は取ってないですが、当時彼が通っていた支援機関の人からは、今でも順調に働いていると聞きました。

すごいですね。やはり「若者就労支援機関」の経験が活きているのでしょうか?
そうですね、仕事に就きづらい悩みのある人の支援は数多くしてきたので、活かされていますね。
働くための第一歩を踏み出せない人って、「働くのが怖い」と感じている人が多いんです。
ちゃんと仕事覚えられるかなとか、コミュニケーションがうまく取れるかなとか、責任やプレッシャーに押しつぶされないかなとか。
でもその気持ちって本当はみんな同じで、みんな乗り越える力を持ってるんです。
それを引き出すことが私の強みなので、最初の一歩を踏み出せない人はぜひ任せてもらいたいです。

主役はあなた。「満足できる働き」を見つけてほしい。

中西さんが持つ仕事に対する「信念」を教えていただけますか。
どんなかたちであれ結果が良い方向に進むことだけを最優先する、ということです。やっぱり主役はご本人ですからね。
ただの励ましで終わっても正直意味ありません。それよりも感情を混ぜずにフラットに話を聞いて、その人だけのゴールを見つけます。あとはそこに辿りつくことだけを考えます。
だから「中西さんの相談全然役に立たなかったけど、別のきっかけでうまくいきました。」となったとしてもOKです。
そうなんですね。
あくまで主役は相談者ですし、しっかりとゴールに到達することがその人の目的であって、私の目的でもあります。結果オーライです。目的が達成できれば、私が満足しなくても評価されなくても全然OKです。
ありがとうございます。
では最後に〝働く〟ことに悩む全ての方へメッセージをお願いします。
一般的に〝働く〟には、3つの目的があるといわれています。
・お金のため
・自分の成長のため
・社会の貢献のため
もちろん全部大事なんですが、一番の理想として「自分が満足できる働き」をぜひ目指してください。

働くならロボットみたいに働くのは嫌じゃないですか。それより人間としての働きをしてほしいです。
もちろんその働き方は人によって違います。主役は「あなた」なので。
もしそれができないなら、相談したらいいんですよ。
実は相談ですぐ解決できることは意外とあります。そんなに難しく考えなくても大丈夫です。

満足できる働きこそが「〝働く〟を楽しむ」ことの前提ですね。
今日は貴重なお話、本当にありがとうございました。
こちらこそ、喋っているうちに自分を振り返るいい機会になりました。
ありがとうございました。
【取材後記】

中西氏はインタビューの間、「主役は本人」と何度も語り、人間的な働きに満足できる人が、一人でも多くあってほしいと願っていた。その想いこそが、自分への評価を度外視し、クライアントの人生をプラスにすることだけを重視する価値観を生んだのだろう。
温厚かつ謙虚で話しやすく、野菜作りの話では少年のように無邪気な笑顔を見せる中西氏。
しかしその目の奥に、キャリアファーマーとして決して妥協しない強い意志の炎が静かに燃えているのを我々は見た。

インタビュアー / 平野利也