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様々な個性が共生できる社会を願って キャリアコンサルタント安藤ゆかりさん

キャリアコンサルタント

大阪外国語大学 (現大阪大学 外国語学部)デンマーク語科卒業後、
大学受験予備校にて英語講師15年の経歴を経て、キャリアカウンセラーに転身。
2019年 11月現在まで16年間で、延べ人数4000人を超える就職相談に対応。

マンツーマンのキャリアカウンセリング(就職相談)を実施する一方、
企業に向けてビジネスマナーや、リーダーシップ養成、コミュニケーション力向上などの企業内研修を年間約300時間ほど担当。

現在は、中高年の第二のキャリア形成に関する講演も数多く行い、人の一生を通じて「働く・生きる」をキーワードにカウンセラー業務を行うことが専門性となる。 また、不登校や発達障害の方の進路に関する相談も、現在のことだけでなく、少し先の将来を見据えたアドバイスを行っている。   

【資格】
2級 キャリアコンサルティング技能士

認知行動療法専門カウンセラー

【研修先実績例】

有料老人ホーム ホーム長対象コミュニケーション研修

・同ホーム長対象 リーダーシップ研修

・福祉施設 職員研修(マナー、コミュニケーション、リーダーシップ等)

・建設業従事者研修(コミュニケーション力向上、リーダーシップ等)

・接客業のための接遇力アップ マナー研修

・高校教員向け キャリア教育研修、マナー研修

・障害者のための就職準備研修 など

・H27年度~31年度 京都府わかもの就職支援条例制定委員

・H27年度~31年度 京都府こどもの貧困対策委員    

・O市交通局職員 コミュニケーション研修

・O市消防局職員 リーダーシップ研修
・S市各区職員 接遇研修

・障害介護者 コミュニケーション研修

・京都府教員向け講演 (中学高校でつくられる社会人基礎力)

・特別支援学校 学生向けビジネスマナー研修

・京都大学とその他大学生向け ビジネスマナー研修

・同上  グループディスカッション研修 他

・専門学校生のキャリアデザイン講座(通年)

・京都府高校生緊急就職支援事業 研修企画と実施

・京都府障害者就職支援事業 研修企画と実施

・徳島県 高校進路指導講演会  など その他多数

最近、いろいろな場所で耳にするようになった発達障害。
データでは、小中学生の15人に1人は発達障害ではないかと言われています。
実は近年の研究で、不登校や長期の引きこもりになる原因には、発達障害が深く関係しているケースが少なくないと、わかってきました。

今回はキャリアコンサルタントして長年発達障害の方の支援に尽力されている安藤ゆかりさんに、発達障害や不登校、引きこもりの方の支援で大切なこと、また早期療育の必要性についてお話をうかがいました。

早期療育の必要性

キャリアコンサルタントして16年の豊富な経歴をもつ安藤さんですが、就労支援の他に発達障害の方の支援にも取り組むようになったきっかけというのはなんですか?
京都ジョブパークでキャリアコンサルタントしていた時に、京都市の支援学校の方から「うちの生徒にビジネスマナーを教えてほしい」と依頼されたんですね。
それが思いのほか好評で、他の支援学校からも依頼がくるようになり、現在の発達障害の方の支援につながっています。
今は週に1回、寝屋川市にある自立訓練所施設で訓練担当をしています。
発達障害の方を支援するなかでとくに気づかれたことはありますか?

そうですね。子供の頃のトラウマに今でも翻弄されている人が多いということですね。
例をあげれば、フラッシュバック(*フラッシュバック=強いトラウマ体験<心的外傷>を受けた場合に、後になってその記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出され頭の中で何度も再生される)に悩む19歳の男性がいます。その子は授業中に突然「僕は中学の時に●●君にいじめられたんだよ~」と泣きながら叫ぶんです。
あと、恨んでいる相手の名前をずっと紙に書き続けている女の子もいました。

どうしてそのようなことが起きているのでしょうか?
子供というのは残酷なところがあって、自分とは違う異質なものを排除しようとする傾向があります。発達障害の子供たちは人とのかかわり方や、適度な距離感を図ることが苦手なので、どうしても摩擦がおきたり、いじめの対象になりやすいんですね。
年齢的には中学時代がターニングポイントになるのでしょうか?
そうですね。中学時代というのは、ちょうど子供から大人になる過渡期で、思春期の真っ只中です。一番多感な時期だけに、その時に受けた心の傷も深くなってしまうんですね。
対策としては、中学に入るまでに対人関係のスキルを高めておく必要があると。。。。?
はい。人間関係のスキルを小さい頃に身につけていれば、その後の人生で、大きく苦労することがないからです。
学校に通う年齢になった時点で子供は人間関係の渦に巻き込まれてしまいます。ですから、理想としては小学校の低学年までに人間関係の訓練に取り組めればいいですね。
なるほど。それはいわゆる早期療育(早期に取り組む治療と教育)というものが必要だということですね。
そう思います。子供の時に人との関係や距離感を学ぶのと、大人になってから学ぶのでは習得のスピードが違います。やはり、子供のころから感覚で覚えたほうが断然早いです。
そういった意味では、早期療育というものは必要であると考えています。
あとは、二次障害のリスクも防ぐという大切な意味があります。
二次障害とはどういったものですか?
二次障害というのは、発達障害の子供がその特性を理解されずに否定的な評価や叱責を受け続けたり、いじめの被害に遇うことで、本人の自尊心やまわりの人との人間関係などが傷ついてしまい、うつ病や不安症、不登校や長期のひきこもりに陥ったりする二次的な障害のことなんです。そのようなことを防ぐためにも早期療育は必要だということです。

発達障害の悪化が不登校と引きこもりの原因に

今のお話をうかがうと、不登校や長期の引きこもりのなかには、そもそも発達障害であることを気づかれずに放置されてしまい、事態が悪化したケースもあるということでしょうか?
おっしゃるとおりなんです。ある精神科医の先生の話では不登校で来院する子供たちの7、8割に発達障害の兆候がみられたとのことです。
近年の研究でも発達障害と不登校や引きこもりには、密接な関係性があることがわかってきています。
そんなにも多いのですか?どうしてそのようなことになってしまうのでしょうか?
発達障害の特性である「人の気持ちや感情を読みとるのが苦手」「場の空気が読めない」「衝動的に行動してしまう」などは見た目では障害とわからず、本人の不注意や努力不足などと誤解されるためです。本人は「困った人」「変な人」の烙印を周りから押されてしまい、疲れ果てた時には自尊心が著しく傷ついて、うつ病や、不登校、引きこもりなどになっていることが多いのです。
本人の努力しだいでなんとかなるものと誤解されるので、障害と気づかれにくいのですね。
はい。本来ならサポートされるべき立場の人が誤解から辛い思いをする。特性についての知識が本人にも周囲にもないための悲劇ですね。
内閣府の発表した調査でも、発達障害者が成人後、社会的に自立できるかどうかは、思春期・青年期までに二次障害を起こさず、無事に乗り越えられるかどうかに懸かっている。と、結論づけていました。
今後は、国や行政機関、教育機関とも連携をとって支援していくことが、ますます必要になってくると思います。

親の意識が子供を救う

不登校についてもおうかがいしたいと思います。
発達障害のはっきりした特性を持つ場合だけでなく人間関係が人より苦手で不登校になる子も多いと思うのですが、そういった子も含めてどのような対応をすることが大切なのでしょうか?
まず無理に学校に行かせないことです。親御さんはお子さんが学校に行かなくなると心配のあまり、なんとしてでも行かせようとしますが、それはかえって事態を悪化させてしまうことがあるんですね。学校に行かないのも選択肢の一つとして考えてほしいです。
わかっていても、なかなか難しいことだと思うんですが。
そうですね。ただ、無理に通わせて心が壊れてしまったら、不登校から長期の引きこもりになる場合や精神疾患になる可能性もあるのです。

ある男子の話なんですが、いじめを受けているのに親に無理に学校に通わされていました。その子はある日、通学路途中で自分をいじめている子に出会ってしまい、恐怖のあまりとっさに自動販売機の裏に隠れたそうです。親に叱られるために家にも帰ることができず、その場でずっとうずくまり、それ以来学校に行けなくなってしまいました。
かわいそうに今でも引きこもっています。

追い詰めることは事態を悪化させるんですね。親の意識を変えることが大事だということでしょうか。
親が心配するのは当然なのですが、学校に行けなくなるにはそれだけの理由があるのです。根性がないわけでも、気持ちが弱いわけでもありません。昔からある根性論や精神論は役にたちません。
長い人生、無理やり学校に通わせてダメにするよりも、一緒に他の可能性や道を考えてあげることが大事なのではないかと思います。

手を差し伸べる人は必ずいる

不登校や引きこもりになってしまった場合の、有効なサポート方法を教えてください。
今、不登校には「認知行動療法」が大変有効と言われています。欧米では治療の効果の高さが長年の臨床データからすでに実証されていて、私もカウンセリングと認知行動療法を使用します。
どのように有効なのでしょうか?
不登校や引きこもりになっている子供たちは事実ではない極論に陥っていることが多いんです。例えば「受験に失敗した自分は生きる価値がないとか、どうせ何をしてもダメだ」など。。。

そのような根拠のない決めつけや、偏った妄想は放っておくと、どんどん悪い方向に暴走していくんですね。
そして、こういった悪い思考を抱えたまま負のスパイラルから抜け出そうとしても非常に難しいんです。ですが、認知行動療法は認知(ものの見方、考え方)のゆがみを現実的、客観的な思考に修正することを目指すので、その結果、行動も変えることができるんです。

実際に認知行動療法で不登校の問題が解決したということはありますか?
大学に入学してすぐ不登校気味になった男の子がいたんですが、認知行動療法の一部である<セルフモニタリング>というものを行ってもらいました。
これは、ワークシートにその時どきの自分の行動と気持ちを書きだすというものです。行動や思考を客感的に観察・把握することで、別の可能性を見出したり、行動を変えたりすることができるものもなのです。

例えば「家にいる時、朝起きてから夜寝るまでの間にどのようなことをしたか」と、その間の時間、行動、気持ちを記入します。
朝10時に起きてゲームをしたけれど、だるかった。など。
また逆に大学に行った時のことも同じように詳しく書いてもらい、2つの分析をしてもらいました。

それをすることによって、行動になにか変化はありましたか?
とても頭の良いお子さんだったので、家にいる時と、大学にいる時の2つの行動を分析をすることによって自分がなぜ学校に行かなくなったのか本当の気持ちに気がついたんですね。結局、学校は親御さんとの真剣な話会いの結果、退学して別の進路に進みました。
自分の本当の気持ちに気がつかないままなら、完全に不登校になり、そのままずるずると引きこもりになっていたかもしれませんね。
そうですね。学校は辞めることにはなりましたが、自分の本当の決断できたことはとてもよかったと思います。このように認知行動療法とは現状のとらわれや堂々巡りの悪循環から抜け出して、前に進むことができるものなので、不登校にも有効なんですね。
よくわかりました。ありがとうございます。
最後に、発達障害や二次障害による不登校や引きこもりに悩むご本人や親御さんにメッセージをお願いします。
発達障害のお子さんは、何らかの自分だけの「特性」を持っており、その「特性」によって生きづらさを抱えていることが多いです。
その特性をなくすことはできませんが、早期療育などの「対策」をすることによって生きづらさを少しずつ減らしていくことはできます。

そしてもう一つ伝えたいこととは、苦しい状況の中にいる方のために手を差し伸べる人は必ずいる、ということです。発達障害や不登校に対する社会の理解は、少しずつかもしれませんが、確かに深まっています。
各種の専門機関、病院、カウンセラー、様々な人が様々な方法でサポートします。
お子さんは、そうした支援を受けながら自分自身と向き合い、将来の道をきっと見つけます。
「特性」についても、「対策」についても、そして「将来」についても、どうか親御さんだけ、ご家族だけで悩まず、ぜひ積極的に支援を求めてほしいと思います。

取材後記

インタビュー後、「今回の記事で誰にも言えず悶々と悩んでいるご本人と親御さんたちに、希望の光があるのだ、と思ってもらえたら幸せです。」と語る安藤ゆかりさん。
どんな質問にも的確に答えてくれる歯切れのよさはまさに頼りになる”カッコイイ先生”そのもので、「大丈夫だから」と力強く背中を押されると、不思議と心から安心感が湧く。

「現代社会は学校や職場で周りに合わせることが苦手な人たちを<空気が読めない>
<協調性がない>などと言って極端に排除、忌避する傾向があります。
そういった閉塞的な社会の中では多数派に所属できない少数派の人たちは弱い立場に追いやられてしまいます。
金子みすゞの詩のように”みんなちがってみんないい”というように様々な個性をお互いに認めることができ、共に生きることのできる社会であってほしいと思います」

そう話す安藤さんを見て、生きづらさを抱えながら生きている子供たちや家族の背中を、これからも力強く、優しく押しつづけてほしいと心から願った。

インタビュアー / 江口 ひとみ